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Record #04-2 -- oxford record -- [ PREV ] [ NEXT ]




Record Details


くるり 学(まなぶ)の 牛津録
Record #: 04-2

Title: 「クリスマスの話」(後半)

Issued on: 2001年12月23日
Last modified: 2001年1月6日

メルマガで発行したモノを、加筆修正して、随時ここにアップしていきます。



your picture here
◎編集後記


 どうも、発行人のくるり学です。やっと、つい二時間前に書き終わりました。疲れました。今はもうこれで勘弁して下さい。ちょっとエロスに走ってるのも勘弁して下さい。登録解除するのも勘弁して下さい。ついでにメールも下さい。

 手直ししてサイトに更新したいのですが、いつになるかは、さっぱり分かりません。その前に、ちゃんと定期的に発行しないと駄目ですね。読者様の反感を買ってるような気がする。
(ああ、ここで新事実発覚。また3人減ってる。編集後記の最期に変な文字書くんじゃなかった。←その前にクリスチャンに謝れ)

 次号、第三録の話は予定通り、聖キャサリンの日のディナー・パーティの話にうんちくを交えてお届けする予定です。2週間後くらいの予定ですので、それまでお待ち下さい。できれば今年中に。

 それではよいクリスマスを。そしてよいお年を?

 メールで質問など送って下されば、文章の中でちょこちょこ応えていこうと思ってますので、皆さんどしどしメール下さい。個別に返信できる自信は余りないです(汗)。

by Kururi
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      !!無断転載厳禁!!     
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行者名:くるり 学 (kururi@lycos.co.uk)
マガジン名:英国留学 牛津録
発行周期:ほぼ隔週刊(不定期って申請したのに[泣])
発行人サイト:http://members.tripod.co.uk/kururi/
(C)M.Kururi, 2001. All rights reserved.
このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して
発行しています。http://www.mag2.com/ (マガジンID: 0000080277)





SIDENOTES

  • ※このおじさんは、只の車掌さんです。
  • 登場英単語:
    ピック・ポケット(スリ)…… pick-pocket
    チアーズ(乾杯)…… cheers



Body


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■DOMI|MINA■  くるり学 の                ■■■■
■ NVS|TIO ■          牛津録           ■■■■
■ILLV|MEA ■        oxford  record         ■■■■
■ |VVV| ■                第四録の二   ■■■■
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●第四録「クリスマスの話」(後)
 
  コーチはハイ・ストリートを離れて、とうの昔にチャーウェル川、セン
 ト・クレメンツ、ヘディントン坂を越えてロンドン・ロードにある。そこ
 からすぐにM40に乗り換えて、後はひたすらハイウェイを走るだけだ。
  クリスマスという名が家族と宗教のためだけだった時期も、とうの昔に
 過ぎ去っていて、今や後ろにパーティと言う名を引っさげて、そこかしこ
 に散らばっている。それでも、ヨーロッパ人を含むクリスチャンな学生達
 には、クリスマス・シーズンに帰省して、家庭の崩壊を防ぐという重大な
 役割があるので、友人同士のパーティはその時期を避けて楽しまれている。
 キャロル・サービスにサンドイッチにされながら。クリスマスの前、ター
 ム終了後の間。クリスマス・パーティと言っても、プレゼントを交換した
 り、お祈りをしたりする訳じゃなくて、実際ただのパーティと変わらない。
 ただお酒を飲んで、日頃の鬱憤を晴らして、あわよくば、交わいの相手を
 求める。場所が変わっても、人間のやる事は大して変わらない。
  そう言う僕も、そんな泡とか夢想しながら、M40に乗る頃にはうとう
 とと車内で眠りこけていた。まだロンドンまで一時間以上ある。このまま
 間違えて終点まで行ったとしても、三十分もロスしないから、知り合いの
 クリスマス・パーティには、充分間に合う筈だから……。
 
  目覚めると、一つ前の席にいた女の子が、隣の席でこちらを見ていた。
 胸をはだけさせながら、顔がゆっくりと近づいてきて、耳元で「好きにし
 て……」
  なんてこともなくて、気付くと、マーブル・アーチの停留所を降りて、
 一人佇んでいた。五里夢中の気分で、慌ててコーチを飛び降りたもんだか
 ら、コーチに見放されてさめざめとする少女のようだった。エースはねら
 えません、という(ってあんたネタ古すぎだよ、そりゃ)茫然自失の状態
 で、意識がはっきりするまでぼーっとしていたらしい。反射的に右を向く
 と、こちらのポケットの中を覗こうとしている黒人の兄ちゃんが、にやり
 と白い歯を見せたので、負けずにこちらも白い歯を見せてやった。が、負
 けた。黒人の歯は何であんなに白く見えるんだ。いや、理由は言わなくて
 もいいよ、そんなことは分かってるんだから。体を黒くされた時、だまっ
 てアルミホイルで巻いていたとか、そんなことにしとこう。
  お返しに鋭い目を見せて、相手を追っ払い、胸元から煙草を取り出して
 一服しながら喝を入れて、目的のオックスフォード・ストリート東行きバ
 ス停に向かった。それにしても、やっぱりロンドンはピック・ポケット
 (スリ)が多い。気を付けなきゃ。
 
  赤いバスの後部に飛び乗ると、首から機械をぶら下げた黒い顔のおっち
 ゃんが、ぶら下げた手でそのぶら下げた機械を操っているから( ※)、ご
 褒美に一ポンド・コインをあげて、二階席に駆け上がり、前方の窓を見て
 はっとした。
  左右からクリスマス・デコレーションが、所狭しと視界を埋め尽くして
 いて、中央にぶら下がる板状の物から、お決まりの文句が次々と押し寄せ
 てくる。メリー・クリスマスだとか……メリー・クリスマスだとか。窓か
 ら外を見渡すと、ストリート全体がクリスマス・バーゲンで沸き返り、浮
 き返り、例えばビンラディンのことを気にしている人なんて一人もいない
 様に見える。時に半額以上もディスカウントされて、有名どころのブラン
 ド品が売られているんだから、当たり前と言えばそうだけれど、まるで、
 この時期のこの通りには、不幸な人なんていない様だ。オックスフォー
 ド・ストリートは、さしずめロンドンのハイ・ストリートみたいな物だか
 ら……。(こう言うと、ロンドンはハイ・ストリートだらけになっちゃう
 けど、まあまあ)
  バスはゆっくりと動き出した。人ごみを掻き分け、真っ直ぐオックスフ
 ォード・サーカスに向かって進むと、すぐ左手に、巨大デパート『セルフ
 リッジ』が現れる。裏手にも系列のセルフリッジ・ホテルが控えているコ
 コは、おねえちゃんからおばちゃままで、お惣菜から岡ひろみまで、何で
 も揃う。気がする。
  赤やピンクや緑や黄色が辺りを飛び交って、世の中が浮ついている。
  暫くすると、真っ赤なアバーディーン・ステーキ・ハウスが右手に見え、
 続いて、ピンクのH&Mが飛び込む。広告には「Love is giv
 ing」の文字。
  愛とは与えるということ。
  当たり前の文句だったら、人の心に印象を与えられないし、広告のコピ
 ーにも採用される筈がない。裏に返した「Love is takin
 g」という文字が透けて見えてきて何だか苦笑いしてしまった。愛は奪う。
  狩猟民族にとっては、全てが奪うことだろうな。そう思うと、夜中の彼
 女達の衣装が、狩猟民族仕様に見えてくる。縄で括られて料理される前に、
 早く目的地に逃げこむべし。
 
  トッテナム・コートからほど近い、そのフラットのドアを開けると、も
 う皆集まっていて、既にパーティは始まっていた。
  バスに乗り込む直前に鷲掴みした、白ワインを生贄に差し出すと、替わ
 りにグラスが渡され、白ワインが注がれ、一分も経たない内に「チアーズ
 (乾杯)」と言葉を交わしていた。
  フラットの持ち主のチェコ人は、僕が来たばかりの頃知り合った、比較
 的古い知り合いだ。横に見たことのない日本人の彼女を連れて、そいつは
 楽しそうにお酒を飲んでいる。背中に「日本人専門」と刺青してやろうか、
 と珠に思う。実は、そいつを紹介してくれた知り合いの女の子ってのも日
 本人で、そいつの前の前の彼女だった。いや、前の前の前? どうでも好
 いことだけどね。本当に。
  テーブルにはお手軽な、本当にお手軽なケバブやチップスの他に、から
 揚げや巻き寿司が並んでいて、僕の頬を緩ませてくれる。そいつの彼女が
 作ってくれたんだそうな。そりゃあそうだろう。僕の他に、日本人は彼女
 しかいない。語学留学中という彼女は、珠に席を外すと、かいがいしく料
 理の準備等をしていて、パーティ全体の世話を焼いている。半年以上前に
 来たというのに、彼の英語しかうまく反応出来ていなかったから、多分、
 学校にはあまり言ってないのだろう。いわゆる「沈没組」に足を入れかけ
 ている。
 「こんにちは」と日本語で挨拶すると、彼女はやや緊張した面持ちで「こ
 んにちは」と返してきて、ピンと来た。彼女は“そういうタイプ”なのだ。
 
   *  *  *
 
  僕が初めてイギリスに来た頃……僕が初めて彼女と会った時も、そんな
 感じだった。イギリスに漠然と憧れて語学留学にやってきたまま、帰る時
 期を逸し、学校にも行かないでふらふらとしていた。学校に行けば何処も
 かしこも日本人だらけで、会えば必ず日本語で喋って、内容と言えば、判
 で押したように日本の事ばかり。日本を嫌で飛び出して来たのに、その学
 校にいたら日本にいるのと変わらない。同じような偏見、同じような理屈、
 同じような脅迫、同じような顔……。いい加減「日本」に嫌気が差してい
 た彼女も、僕と出会う頃には“そういうタイプ”になっていた。
 「こんにちは」と日本語で言うと、やや緊張して「こんにちは」と言う。
 どういうタイプなのか分からないまま、何となく英語で話し始めて、いつ
 の間にか仲良くなって、気付いたら同じキッチンでロースト・ターキーの
 準備をしていた。
 
 「こっちのクリスマスって淋しいよね」と彼女は言う。
  町中の人達が自分達の「家」に帰り、「家族」とこの祝日を祝う。あの、
 やる気の無い従業員達も全てどこかに引き篭もってしまい、クリスマス辺
 りの三日間、開いている店と言ったら遠く離れたインド人ショップだけだ。
  僕は自然に「うん」と答えた後、彼女がもしいなかったら、と想像して
 ぞっとした。一年の内で最も暗い時期を選ばれた、クリスマスという季節
 は、一歩外に出たら真っ暗で、行く当ての無い風が全てを剥ぎ取るように
 吹き荒れている。オレンジ色の街灯は、辺りを偽りの暖かさで孤立させ、
 いつもの五月蝿いトラフィックのノイズも跡形も無い。キリスト教徒であ
 れば、まだしもそれなりの場所を与えられる。街は、家族も宗教も持たな
 い僕を異端者として締め出し、地獄の淋しさを植え付けようと大口を開け
 て待っているのだ。何て場所だ。何てクリスマスだ。
  ふと、彼女の料理する背中が頼もしく思えた。
 
  女の子は、時折隙をついて、僕の胸をドキッとさせる。
 「なんだか家族みたいだね……」
  どきまぎして、次に話す言葉を一生懸命探しているこちらを、嘲笑うか
 のように「どうしたの?」と軽く流して、にっこりと笑ってみせる。たま
 らず
 「今日、僕はおじいちゃんで君は孫娘で、家族ってことに」と自分でも理
 解不能なことを口走る。
  また笑いが取れただけでOKにしておこう。
 
  センズ・ベリーで買ったターキーが、香ばしい匂いを立ち込めてテーブ
 ルの上に乗る。今日のために買っておいたフランス産のシャンペンが、瞬
 間大きな音を立てて、部屋を一時明るくする。ただ同然で売られているエ
 コノミー・パックの蝋燭を馬鹿みたいにともして、部屋は暖かいオレンジ
 色で包まれている。このオレンジ色がいい。少し暗い明かりが、彼女の頬
 を飛び切りおいしそうに見せるのだ。搗き立てのお餅のように温かく、柔
 らかそうで。そう言えば、鼻も可愛らしく見えるし、目もキラキラして、
 唇もおいしそうじゃないか。なんて思っている時、既にお酒が回っている
 自分がそこにいた。ただのスケベ親父のような気がして憮然とする。
  突然、窓枠がガタガタと音をさせ、強い風の音が聞こえた。
 「寒そうだね」と彼女。氷点下の外気が、寒くないわけない。それで、
 「今日はおじいちゃんの家に泊まっていく?」と言ったら「色ボケ爺の家
 は危なっかしいからなァ……」とまた軽くいなされた。腹いせに、イギリ
 ス人のようにガツガツとターキーを噛み切り、続けて開けた赤いワインを
 喉元に押し込んだ。
  二人で半分食べきったところでおなか一杯になって、ターキーの一幕は
 終了した。軽く音楽でも流しながら、ワインを片手に他愛の無い話を二人
 で続ける。あそこのマクドナルドは汚いだとか、センズ・ベリーは人が多
 すぎるだとか、あそこのバーは高いだとか、あそこのクラブはゲイばっか
 りだとか。
  気付くと僕は、彼女の横に寄り添って、手を重ねていた。すぐ横に彼女
 の小さな耳があって、ぷんと媚薬の匂いが漂ってくる。いつもと違う新し
 い匂いに誘われる様に、彼女の耳元まで息を寄せて、
 「この頬っぺたを食べてみたいんだけど、いい?」と、勢いにまかせ、唇
 を頬に重ねようとする。寄り添う僕に、ぼそっと彼女はクールに答えた。
 「食べてもいいけど。おじいちゃんの割に下半身は若いんだね」
  酔っ払ったせいで、僕の一部は既に準備万端になっていた。彼女は……
 クールな口調の割に、息は小刻みに震えていて、口付けた僕の前で、短い
 吐息を漏らす。そんなものを見せられて黙ってはいられない。誰かが後ろ
 で後押しするように、彼女の胸に僕の左手を滑り込ませていた。見た目よ
 り大きく感じる、Bカップの柔らかな胸。
  彼女の体は、イギリス人と全く違って、繊細でつつましかで、かわいら
 しく、お陰で僕の欲情は急激に加速される。僕の背中にもきっと日本人女
 専門と刺青されているに違いない。か細い首の下に鎖骨が少し浮き上がっ
 ていて、取り去った黒いブラジャーの下には、白い乳房と隆起した突起部
 分のピンクが淫らに見えて、僕はたまらず彼女をベッドに押し込んでいた。
 今、背中にあるのは日本人女専門じゃない。
  彼女の右手が、僕の一部を優しく包んで、
 「あったかいね」と耳元で囁いて僕を一層興奮させる。僕もお返しに手を
 差し伸べて、囁き返した。「君もあったかいよ」
 
  ガタガタと震えつづける窓枠と、氷点下の外気をよそに、僕と彼女は一
 緒になって、シングル・ベッドを激しく揺らす。外から差す、細く淡いブ
 ルーの光も、激しく踊る僕らの体を貫けるはずがない。上になって下にな
 って、獣のように激しい吐息を立て、激しくベッドをきしませて快感が体
 を包み一つになっていく。
  汗だくになって、液体まみれのベッドで二人寄り添う。窓枠の音だけが
 響くようになっても、僕のベッドは暖かかった。愛が淋しさを奪う、寒い
 寒いクリスマスの夜。
 
  いつかのクラブで昔の男の話を聞かされた時、「あなたの方が百倍いい
 わ」と言って彼女が泣いたことを思い出した。同情を誘うための偽りの涙
 なのに、僕はその時魅せられてしまったのだ。大人の女にやられた。偽り
 の、本気の涙を流せるようになったら、大人の女になった証拠だ。
 
  隣で半分体を乗せた彼女が言う。
 「明日の朝、時計買って。安物でいいから……」
 「何で?」
 「日本に持って帰るの」
 「日本に持って帰ってどうするの?」
 「止まるまで持ってるわ」
 
  次の日のボクシング・デイに、彼女に安物の時計を渡してすぐに分かれ
 た。
  それから彼女と会っていない。時計が止まっているかどうかも知らない。
  そんな僕のクリスマスの話。
 
   *  *  *
 
  チェコ人の彼女は、いつか日本に帰るんだろうか? それとも、ここに
 永久に骨をうずめるんだろうか? そのどちらも、まだ考えてないんだろ
 うか?
  彼女は新しい料理――ひょっとしてロースト・ターキー――をオーブン
 で焼いている。から揚げを頬張りながら、そんな彼女に意味のないお世話
 を焼いていた。どこまで焼いた所で、彼女が彼女だということは事実だ。
 彼女は僕ではない。まして、一緒にターキーを焼かなければ、僕の話にも
 ならない。手元のワインを飲み干して、帰りのコーチのことに思いを馳せ
 た。
  居残り続ける日本人達の行く末は、死ぬ間際の象のように不明だ。千差
 万別、十人十色なんだから、十把一絡げに分類なんてできない。一方、語
 学留学に来る彼女達の数は年々増えて、ロンドン在住のおよそ三万人の半
 分が女性、その何割かは、きっと“そういうタイプ”になっていくのだろ
 う。それでもおそらく、大半の人は、大嫌いだった日本に帰っていく。そ
 して彼女もきっと、今、日本にいる。でも、
 
  僕の淋しさの片隅は奪われたまま、
  彼女が今どこにいるのか誰も知らない。
 
 
 (了)
 
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